天台宗の教え(2)「円教」(法話第12話)
円教とは、欠けるところのない円満な教えという意味です。
中国天台宗の開祖である天台大師智顗禅師は、すべての経典をその教えの内容によって、蔵教・通教・別教・円教四つに分類しました。これを化法の四教といいます。そして衆生を教化する形式や方法に基づいて頓教・漸教・秘密教・不定教の四つに分類したものを化儀の四教といいます。
このように諸経典を内容・形式・説法の順序などに従って、その教えの特徴や優劣を判定することを教相判釈といいます。教相判釈の中で、前に挙げた天台大師の五時八教が特に優れたものとして有名です。
五時とは、釈尊が説かれた諸経典の内容を分類し解釈し、説かれた順序によって華厳時・鹿苑時・方等時・般若時・法華涅槃時の五段階の時期に分けたもので、釈尊が悟りを開かれて後の説法の流れを表わしております。またその五時を、牛乳が濃くなり、凝固してバターやチーズに変化してゆく段階に重ね合わせ、乳味・酪味・生蘇味・熟蘇味・醍醐味の五味ともいいます。
第一の華厳時(乳味)には『華厳経』というお経が説かれました。『華厳経』というお経は、釈尊がお悟りの内容(自内證)をストレートに説いたもので、とても難しいお経です。大多数の人は理解できなかったでしょう。その後は、対機説法と言って、聴衆の能力(機根)に合わせて
説かれるようになります。第二の鹿苑時(酪味)には、『阿含経』などの初歩的な内容のお経(小乗仏教)が説かれました。その後、第三の方等時(生蘇味)、第四の般若時(熟蘇味)、第五の法華涅槃時(醍醐味)は大乗仏教と呼ばれ、徐々に高度な内容になってゆきます。
天台宗では、第五の法華涅槃時に説かれた『法華経』と『涅槃経』を同一醍醐味といい、同等の価値を持ったお経であるとします。
釈尊は最初に自分が悟った内容をそのまま披瀝し、その後、順々に易しい内容のものから聴衆の習熟度に合わせて難しい内容の説法を行なったということです。
釈尊が説かれた教えを内容の面から四種に分類した化法の四教とは、諸経典の中で最も価値の高い究極の教えを円教といい、五時の中で最後の五番目の法華涅槃時に説かれた法華経を円教の経典として大切にします。天台宗のことを初期には天台法華円宗とよび、欠けることのない円満な教えという意味の円教である法華経を根本の所依の経典とした宗旨であるとこを表わしています。